秋本治氏の名作漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(通称:こち亀)。
惜しくも最終回を迎えましたが、長期に渡る連載は数多くの伝説を残しています。
その中から、あまり知られていないエピソードをいくつか紹介します。
両さんが歌った歌は実在している?
初期のこち亀で、中川と両さんが歌でしりとりをするシーンがあります。
そのとき、追い詰められた両さんが「雨雨雨だよ、やけに降りやがる。今日で幾日、どしゃぶり続き」と歌い、それに対し、中川が「適当だ!適当に歌っている!」と憤慨しますが、この歌詞の歌は実在します。
これは田端義夫の「雨の屋台」という歌の冒頭部の一節で、両さんも「違う、田端義夫が歌っているぞ!本当だぞ!」と反論しています。
本当なのです。
両さんが飛ばしたギャグの元ネタ
サンタクロースに扮した両さんが、「俺ぁ、三太だ。ははは、ある程度の年代の人にしかわからないギャグを飛ばしてしまった」というセリフを言うシーンがあります。
ここでいう三太とは、作家、青木茂原作の児童文学作品「三太物語」の主人公のことです。
戦後すぐにNHKでラジオドラマ化され人気となった作品です。
山奥の村に住む明るい性格の少年と、都会から来た女性教師とのふれあいを描いた作品で、冒頭のセリフは主人公の口癖です。
人気だったので、昭和30年代にフジテレビでテレビドラマ化もされていて、子役時代のジュディ・オングも出演していました。
両さんが取り上げたのが、どちらのバージョンなのかは不明ですが、この三太物語の先生役が魅力的だったので、教師を目指す女性が増えたという逸話があります。
なお、作品中に登場する御所河原組の組長、御所河原金五郎之助佐ヱ門太郎が登場時に傘をさしながら披露したギャグ「なんである!アイデアル!」は、植木等が出演していた傘のCMのパロディです。
元々は不器用という設定だった?
これはある程度の年代の読者にはよく知られた話ですが、連載途中から両さんはプラモ作りが好きで、人間業とは思えないような精巧な作品まで作れる設定になりましたが、初期の頃は不器用という設定でした。
署の文化祭にマッチ箱で作った戦車を出品し、戸塚巡査から「署内一のぶきっちょ」などと言われていました。
初期の両さんは本当に流行に疎いおじさんという感じで、野球のルールもろくに知らなかったし、「ヒトラーって誰?コメディアン?」なんていうセリフもありました。
ハードロックなど聴く人ではなく、好きな歌手といえば春日八郎でした。
歳月と長期連載が人を変えたということですね。
元は「がきデカ」のパロディ?
作者は最初、山止たつひこというペンネームを使用していました。
これは「ガキデカ」の作者、山上たつひこをもじったもので、要はこち亀という作品は、「がきデカの大人版というパロディだ」と表明していたのです。
「山止たつひこ」名義のコミックスはかなりのプレミア物だとのことです。
ちなみに元警官で、作家でもある北芝健氏はこち亀の原案に協力しているそうです。
海パン刑事のモデルはあの超有名タレント?
海パン一丁で現れる特殊刑事の海パン刑事こと汚野武刑事。
この刑事のモデルは名前からも推測できるようにビートたけし(北野武)です。
ビートたけし自身も著書の中で語っています。
「北野ファンクラブ」という番組内で、ビートたけしが演じていた「海パン刑事」というコントを作者が好きだったことから生み出された刑事です。
部長の誕生日は変動制
長期連載故にキャラクターの設定が変わってしまうのは仕方のないことですが、大原部長は特に典型的です。
連載当初は大正生まれの軍人出身という設定でした。
血液型についてもA型だったり、O型だったりとその都度変えられています。
出身地も秋田になったり、東京になったり、住んでいるところも都会になったり、田舎になったり……
中川の会社のプロジェクトで再現された安土城に住んだこともあります。
ただし、一夜で火事にて消失するオチでしたが。
誕生日に関しては作者が完全に開き直っていて、連載後期には「部長の誕生日は変動制です」と断り書きがされるようになりました。
作者がネタを思いついたときが誕生日というわけですね。
ちなみに両津は3月3日生まれ、中川は12月24日生まれ、麗子は7月7日生まれです。
中川の会社が開発したシミュレーションゲームでは、部長は両さんと出会わなければ、高い確率で警視正まで昇格し、署長になっていたと推測されています。
両さんと作者に翻弄された人生と言えますね。
初期の頃、大原部長の父親が公園前派出所に立ち寄り、両さんに道を尋ねようとしますが、退屈していた両さんにトランプ遊びに付き合わされるというエピソードがあります(現在の単行本では親戚のおじさんという設定に変えられています)。
なお、時代がずっと下り、近年の連載で、両さんが擬宝珠家の檸檬を連れて、部長の田舎(秋田)に遊びに行く話が描かれています。
また、かつては部長も両さんもタバコを吸っていましたが、時代の流れか、いつ頃からか喫煙シーンはなくなっています。
両津という苗字の由来
「両津」という苗字は、あまり見かけない苗字ですが、作者が入院した際に面倒を見てくれた看護師さんが、佐渡ヶ島の両津市出身だったことが由来とされています。
ハチャメチャな人物だけに、あまり一般的にある苗字だと、同じ苗字の子供がいじめられたかもしれず、結果的には良かったのかもしれません。
偽最終回で例えに出された「素浪人月影兵庫」と「花山大吉」
両さんが旅に出て、「今まで応援ありがとう」と言って去っていく偽の最終回がありました。
次のページに「あの両さんが帰ってきた」と書いてあり、読者も登場人物たちもだまされたとわかるわけですが、そのとき、部長たちから責められた両さんが「素浪人月影兵庫が終わって、同じスタッフで花山大吉が始まったろ。あれと同じだよ」と弁解するセリフがあります。
このふたつの番組がどういう話だったのか、気になったので調べてみました。
素浪人・月影兵庫について
まず、素浪人月影兵庫ですが、これは南條範夫の小説をもとにした時代劇で、剣の達人である月影兵庫と、曲がったことが嫌いなヤクザ者の半次が気ままな旅を続ける話です。
道中、弱気を助け、威張った連中を叩きのめすところが人気を博し、第2シリーズまでが作られました。
主役の月影兵庫は大スター近衛十四郎が演じています。
俳優、松方弘樹の父です。
第2シリーズも人気でしたが、コメディ色が強くなったことが、作者の逆鱗に触れ、やむなく終了することになったそうです。
最後、主人公が幕府要人の息子だったことがわかり、半次と別れるところで終わります。
花山大吉について
花山大吉については、半次がひとり旅を続けていると、月影兵庫そっくりの浪人を見かけて「だましやがったな!」と怒るところから始まります。
花山大吉を演じるのはもちろん近衛十四郎です。
若干の設定変更はあったものの、ほとんど話は月影兵庫と同じだったそうです。
だから、両津さんはこのことを例え話に使っているのですね。
ちなみに、花山大吉も人気でしたが、主役の近衛十四郎の糖尿病が悪化したことにより終わっています。
のちに息子の松方弘樹によってリメイクされ、相棒の半次は田原俊彦が演じています。
秋本治の漫画に花田留吉という人情に厚いヤクザが登場しますが、この花山大吉から名前を取ったのかもしれません。
両さんはなぜクビにならないのか?
不祥事だらけで始末書を数万枚書いたとか、作中、何度も逮捕されたり、歴史的建造物を崩壊させるなど、むちゃくちゃなことをしている両さんですが、一応、検挙率が人一倍高いということでクビにならないという話を大原部長が説明するシーンがあります。
なお、両さんは賭け事が好きですが、昔、屯田部長という両津の先輩が登場したことがあり、両津には賭け事をすべて教えたと話す下りがあります。
屯田部長は麻雀牌同士が接触した音を聞くだけで、何の牌か判断できる耳を持ち、両さんの始末書の数がまだ30枚のとき、すでに100枚に達していたという強者です。
その後、登場することがなかったため、どこまで記録を伸ばしたのかは不明です。
巡査長という地位は名誉職?
両さんは巡査長という地位で呼ばれていますが、実は巡査長というのは、警察における正式な階級ではありません。
巡査の中から経験年数の多い者、または成績優秀な者から選出され、呼ばれる呼称です。
一応、給料は巡査よりはいいらしいですが。
ちなみに警察官の階級はというと……
巡査→巡査部長→警部補→警部→警視→警視正→警視長→警視監→警視総監となっています(警視総監になれるのは警視庁に務める警察官のみ)。
大原部長は部長なんて呼ばれているので、かなり上の階級に思えますが、実は下から二番目の階級にすぎません。
昔、趣味で書いたこち亀の二次創作小説です。
良かったら、読んでやってください。
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